大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成12年(借チ)2号 決定 2000年12月14日

主文

一  申立人が別紙一物件目録(一)記載の土地についての賃借権を譲り受けることを許可する。

二  申立人は、相手方に対し、金四九一万円を支払え。

理由

一  申立ての要旨

本件申立ての趣旨及び理由は別紙二記載のとおりである。

二  鑑定委員会の意見等

鑑定委員会は、本件申立てを認容するのが妥当であり、これを認容する場合、付随処分として、金四九一万円の財産上の給付を命じ、敷金一〇〇〇万円の差し入れを命じるのが相当である旨の意見書を提出している。

三  当裁判所の判断

(一)  一件記録によれば、本件申立てについては、これによって賃貸人である相手方に不利となるおそれがあるとは認められないから、これを認容するのが相当である。

相手方は、申立人が競売により別紙一物件目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)を取得した後、申立人が本件申立て及び増改築許可の申立て(その後、取下げられた。)をしながら、裁判所の判断が示される前に増改築に類する工事をして同建物で営業を行っていることは、借地借家法で競売による土地賃借権譲受許可の制度を認めた法の趣旨を無視した結果となること等から、本件申立てを認めるべきではないと主張する。

申立人は、平成一一年一一月一八日に本件建物につき競売代金を支払ってその所有権を取得し、同月二四日から同年一二月一八日まで本件賃借権譲受につき相手方の承諾を得るべく交渉を続けたが、同月二一日、相手方から譲渡を承諾しない旨の内容証明郵便が来たことから、平成一二年一月一三日に本件申立てをおこなったこと、申立人は本件建物を焼肉店として使用するために購入したものであり、申立人の行った工事は主要構造部分には関わらない改装工事であること、本件手続は、鑑定委員会が現地調査をすること等から相応の時間が必要であること等を考慮すると、相手方が主張する事情を考慮しても、本件申立てが、これによって賃貸人である相手方に不利となるおそれがあるとまでは認められない。

(二)  次に、財産上の給付について検討する。借地権譲渡の場合の財産上の給付は、従来、名義書換料として存在した慣行を法制度化したものであるが、これは、本来、借地権の譲渡を承諾するかどうかは借地権設定者の自由であるところ、裁判所が決定により借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることから、いわば承諾そのものの対価とみることができるものであり、通常の場合、借地権価格の一〇パーセント相当額が原則とされている。

鑑定委員会の意見には、その手法及び基礎とする資料に格別不合理な点は見当たらない。したがって、鑑定委員会の意見のとおり、本件土地の更地価格を七〇一四万円、本件借地権の価格をその約七〇パーセントに当たる四九一〇万円と評価した上、右借地権価格の一〇パーセントに当たる四九一万円をもって、本件申立てを認める場合の財産上の給付の額とするのが相当である。

(三)  借地条件については、本件は競売にともなう土地賃借権の譲り受けであるから、特に当事者間の利益の衡平を害することがない限り、申立人は前賃借人が相手方と締結していた賃貸借契約をそのまま引き継ぐのが基本であり、鑑定委員会の意見にも照らし、別紙三賃貸借契約の概要のとおり、存続期間は平成三八年一二月一四日まで、地代は月額一九万一一五〇円を変更する必要はないものと判断した。

地代につき、申立人は、いわゆるバブル期以降の地価の下落やそれにともなう固定資産税の減額を考え、地代を減額すべきであると主張し、相手方は、本件土地の地代が平成四年以来今日まで増額されておらず、差額配分法による試算によっても現在の地代に六四三九円を増額するのが正当である旨主張する。しかしながら、鑑定委員会は、本件土地の地代が平成四年から据え置かれていること、周辺地域の地価が大幅に下落していること、本件土地の平成一二年度の公租公課が平成四年度より安くなっていること、その他本件地代の利回り等を総合的に考慮した結果、地代は据え置くのが相当であるとの結論を導き出しているのであり、当裁判所も右判断を相当と考えるものである。

なお、敷金については、土地賃借権譲渡の場合、旧賃借人の差し入れた敷金については、旧賃借人が新賃借人への敷金の引き継ぎに同意しているか、あるいは新賃借人に対する敷金返還請求権の債権譲渡がない限り、新賃借人に引き継がれないものである。申立人が本件建物等を取得した競売の物件明細書にも敷金一〇〇〇万円の記載があり、申立人は右敷金について認識した上で本件建物及び土地賃借権を競落している。また、従前の地代月額一九万一一五〇円は敷金一〇〇〇万円が差し入れられていることを考慮しての金額であり、鑑定委員会の判断も敷金一〇〇〇万円が差し入れられることを前提にしたものである。したがって、申立人は、本件土地賃借権譲受にともない、新たに右敷金を差し入れることになる。ただ、本決定においては、敷金の差し入れが、厳密な意味での借地借家法二〇条一項にいうところの借地条件の変更、あるいは財産上の給付には当たらないと解されることから、主文には掲げないこととした。よって、主文のとおり決定する。

(別紙一)

物件目録

(一) 所在    大阪市天王寺区味原町

地番    一六番二一

地目    宅地

地積    一二六・三八平方メートル

(二) 所在    大阪市天王寺区味原町一六番地二一

家屋番号  一六番二一の二

種類    寄宿舎

構造    鉄筋コンクリート造陸屋根五階建

床面積   一階 七二・八七平方メートル

二階 七二・八七平方メートル

三階 七二・八七平方メートル

四階 七二・八七平方メートル

五階 一〇・五〇平方メートル

(別紙二)

二 申立ての趣旨

「申立人が三欄記載の土地の賃借権を譲り受けることを許可する。」との裁判を求める。

三 借地権の目的の土地(数筆あるときは別紙に記載すること。)

1 所在地番 大阪市天王寺区味原町壱六番弐壱

地目   <ア> 宅地  イ その他(     )

地積   壱弐六・参八平方米(参八・壱八坪)

右土地のうち、

<ア> 全部 契約面積    ・  平方米(    ・  坪)

実測面積    ・  平方米(    ・  坪)

イ 一部 契約面積    ・  平方米(    ・  坪)

実測面積    ・  平方米(    ・  坪)

2 右土地のうち、賃借権を譲り受ける部分

<ア> 全部

イ 一部(別紙にその部分を特定する図面を記載して添付すること。)

四 契約の種類

<ア> 普通借地権

イ 一般定期借地権(借地借家法第二二条)

ウ 建物譲渡特約付借地権(同法第二三条第一項)

エ 事業用借地権(同法第二四条第一項)

五 土地賃貸借契約の内容

(申立人が競売又は公売により取得した建物の敷地について右建物の前所有者が有していた賃借権に関する契約の内容を記載すること。右契約が転貸借契約であるときは、別紙に転貸人の賃借権に関する契約の内容もこの欄にならって記載し、この申立書の末尾に添付すること。)

1 契約締結の日

昭和・平成 五七年壱〇月壱四日

2 契約当事者

(一) 賃貸人 畑山武康

(二) 賃借人 盛宏株式会社

3 存続期間

(一) 契約上の定め

ア なし

<イ> あり

昭和・平成 参八年壱弐月壱四日まで又は契約締結後  年  月間

(二) 契約の更新

ア なし

イ あり

Ⅰ 昭和・平成  年  月  日 Ⅱ 昭和・平成  年  月  日

(三) 残存期間

平成参八年壱弐月壱四日まで(あと弐六年壱壱月間)

4 現在の地代

昭和・平成  年  月  日以降一か月金壱拾九万壱千壱百五拾円

(参・参 平方米当たり金約五千円)

5 敷金、更新料その他の金銭の支払状況

敷金 壱千万円

六 取得した建物(数棟あるときは別紙に記載すること。)

家屋番号  壱六番弐壱の弐

構造    鉄筋コンクリート造 陸屋根 葺 五階建

種類    ア 居宅 イ 店舗 ウ 共同住宅 エ 事務所 オ 工場

カ 倉庫 <キ> その他(寄宿舎)現況店舗

床面積   一階 七弐・八七平方米(弐弐・〇弐坪)

二階 七弐・八七平方米(弐弐・〇弐坪)

三階 七弐・八七平方米(弐弐・〇弐坪)

四階 七弐・八七平方米(弐弐・〇弐坪)

五階 壱〇・五〇平方米(参・壱七坪)

使用状況  <ア> 自己使用  イ 賃貸  ウ その他( )

七 競売又は公売の内容

申立人は、三欄記載の土地の上に存する六欄記載の建物を、<ア> 競売 イ 公売により取得した

1 代金 金参千五百参拾九万円

2 代金支払日 平成壱壱年壱壱月壱八日

3 右建物の前所有者の氏名 盛宏株式会社

八 申立ての理由

次のような理由により、申立人が土地賃借権を取得しても、賃貸人に不利となるおそれはない(申立人の職業、資力その他の事情を記載すること。)。

申立人方は、約20年前より精肉及び焼肉店を営んでおり、店舗数も、生野区に二店舗八尾市に一店舗と着実に増やしております。又これまで賃料の滞納等賃貸人とのトラブルも一切無く、近隣の住民とも友好的につきあっております。

九 申立て前にした当事者間の協議の概要

・賃貸人畑山武康氏に問い合せたところ、この件に関しては大阪市北区西天満四丁目四番十八号の山崎容敬弁護士に一任してあるとのことで以後山崎弁護士と折衝。

・11月24日、山崎弁護士事務所において話をしたところ、自分は代理人ではないが、意向は聞いておるとのことで畑山氏は賃借権譲渡の承諾に難渋を示しており、近隣住民に対する対策と建物の内装図面を示してもらいたいとのことで、後日当該書面等を弁護士に送付。

・12月8日、山崎弁護士に電話で問い合せたところ、当該図面では説明不足であり、畑山氏が立腹しておるとの説明を受ける。

・12月14日、山崎弁護士事務所にて、畑山氏は承諾しない旨を通告される。

・12月18日、畑山氏宅を訪問したが不在であり、12月20日畑山氏に電話をしたが弁護士に一任してあり、直接話し合いをしない旨通告される。

・12月21日、畑山武康氏代理人山崎容敬名義で譲渡を承諾しない旨及び内装工事を止めるよう内容証明郵便到達。

十 現場付近の略図(付近の土地の利用状況及び最寄りの交通機関からの道順が分かる程度に記載すること。)

<省略>

(別紙三)

賃貸借契約の概要

契約締結の日  昭和五七年一〇月一四日

契約の目的   堅固な建物の所有

存続期間    平成三八年一二月一四日まで

地代      月額一九万一一五〇円

敷金      一〇〇〇万円

契約書の有無  有(公正証書)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例